第2章:不思議なメッセージ
8. 夢が告げるもの
その夜、私は久しぶりにぐっすり眠れた。
……いや、眠れたというより、「寝落ちした」というほうが正しいかもしれない。
なにせ、神社で出会った謎の男性のことを考えていたら、頭がグルグルしてきて、気づけば布団の中でスマホを握ったまま眠りこけていた。
「あなたは、もう少しで本当に大切なことに気づきます」
あの言葉の意味が、どうしても引っかかる。
「もう少しで」って、いったい何が起こるんだろう?
結菜が戻ってくる? それとも、私の人生がガラリと変わるような出来事が起こる?
考えても答えは出ないので、とりあえず寝てみることにした。
寝たらスッキリするかもしれないし、最近、やたらと不思議なことが続いているので、「夢で何かヒントが出てくるかも」という淡い期待もあった。
で――本当に出てきた。
***
夢の中、私はどこかの暗い部屋にいた。
電気もなく、窓もない。
ぼんやりとした薄明かりのなかで、私は自分がどこにいるのかもわからなかった。
「ここ、どこ?」
誰かに聞いてみたけれど、誰もいない。
いや、厳密に言うと、遠くのほうで何かが動いている気配がする。
よく見ると、奥のほうに小さな光があった。
私は無意識にそっちへ歩いていった。
光の向こうに何があるのか知りたくて、足が勝手に動いた。
そして、光の前に立った瞬間――
「あなたは、どのスクリーンを選ぶの?」
突然、声がした。
私はビクッとした。
誰!? と思って周りを見回したけれど、相変わらず誰の姿も見えない。
だけど、確かに声は聞こえた。
「……スクリーン?」
目の前の光が、ゆっくりと広がっていく。
すると、それはまるで映画館のスクリーンみたいになり、そこに映像が流れ始めた。
映っていたのは、私と結菜だった。
私たちは一緒にキッチンに立って、楽しそうに料理を作っていた。
私はエプロンをしていて、結菜は笑顔で材料を切っている。
「ママ、この味付けどう?」
「うん、美味しいよ!」
それは、まさに私が望んでいる未来だった。
結菜が帰ってきて、私たちがまた普通に暮らしている未来。
私は思わずスクリーンに手を伸ばした。
すると、声が言った。
「それが、あなたの選ぶ未来?」
「えっ?」
「選びなさい。どのスクリーンを生きるのか」
そう言われて、私は初めて周囲を見回した。
すると、気づいた。
スクリーンは、一つじゃなかった。
さっきまで暗かった部屋のあちこちに、いくつものスクリーンが並んでいた。
それぞれに違う映像が映っている。
一つのスクリーンには、私が泣きながら電話をしている姿。
別のスクリーンには、結菜が戻ってこないまま、一人で食事をしている私。
そして、さらに別のスクリーンには、知らない街で新しい人生を始めている私が映っていた。
どのスクリーンも、同じ「私」なのに、まったく違う人生を生きている。
「……どれでも、選べるの?」
私は半信半疑で聞いた。
すると、声は優しくこう言った。
「あなたがどこに意識を向けるかで、現実は決まる」
「……現実は、決まっていないってこと?」
「そう。すべては、あなたの選択」
私はしばらく黙っていた。
たくさんの未来の中から、私はどれを選ぶのか。
結菜と一緒にいる未来か、そうでない未来か。
幸せな私か、苦しみ続ける私か。
どの未来を選ぶかは、私の意識次第。
――なら、決まってるじゃない。
私は、最初に見たスクリーンに向かって、手を伸ばした。
「私は、この未来を生きる」
そう言った瞬間、スクリーンが眩しく光り、私はその中へ吸い込まれていった。
***
目が覚めたとき、私は心臓がドキドキしていた。
夢のことはハッキリ覚えている。
スクリーン、選択、たくさんの未来。
私は、どの未来も可能性として存在していることを、夢の中で確かに感じた。
そして、気づいた。
「私は、結菜と一緒に暮らす未来を選ぶ」
まだ、どうすればそうなるのかはわからない。
でも、私はその未来を信じることにした。
夢の中の声は、きっと私を導いてくれたのだ。
「この世界は、私が選べる」
そう思った瞬間、私は少しだけ希望が見えた気がした。