8. 夢が告げるもの【理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~】

理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~

第2章:不思議なメッセージ

8. 夢が告げるもの

 その夜、私は久しぶりにぐっすり眠れた。

 ……いや、眠れたというより、「寝落ちした」というほうが正しいかもしれない。
 なにせ、神社で出会った謎の男性のことを考えていたら、頭がグルグルしてきて、気づけば布団の中でスマホを握ったまま眠りこけていた。

 「あなたは、もう少しで本当に大切なことに気づきます」

 あの言葉の意味が、どうしても引っかかる。
 「もう少しで」って、いったい何が起こるんだろう?
 結菜が戻ってくる? それとも、私の人生がガラリと変わるような出来事が起こる?

 考えても答えは出ないので、とりあえず寝てみることにした。
 寝たらスッキリするかもしれないし、最近、やたらと不思議なことが続いているので、「夢で何かヒントが出てくるかも」という淡い期待もあった。

 で――本当に出てきた。

 ***

 夢の中、私はどこかの暗い部屋にいた。

 電気もなく、窓もない。
 ぼんやりとした薄明かりのなかで、私は自分がどこにいるのかもわからなかった。

 「ここ、どこ?」

 誰かに聞いてみたけれど、誰もいない。
 いや、厳密に言うと、遠くのほうで何かが動いている気配がする。

 よく見ると、奥のほうに小さな光があった。

 私は無意識にそっちへ歩いていった。
 光の向こうに何があるのか知りたくて、足が勝手に動いた。

 そして、光の前に立った瞬間――

 「あなたは、どのスクリーンを選ぶの?」

 突然、声がした。

 私はビクッとした。
 誰!? と思って周りを見回したけれど、相変わらず誰の姿も見えない。
 だけど、確かに声は聞こえた。

 「……スクリーン?」

 目の前の光が、ゆっくりと広がっていく。
 すると、それはまるで映画館のスクリーンみたいになり、そこに映像が流れ始めた。

 映っていたのは、私と結菜だった。

 私たちは一緒にキッチンに立って、楽しそうに料理を作っていた。
 私はエプロンをしていて、結菜は笑顔で材料を切っている。

 「ママ、この味付けどう?」

 「うん、美味しいよ!」

 それは、まさに私が望んでいる未来だった。
 結菜が帰ってきて、私たちがまた普通に暮らしている未来。

 私は思わずスクリーンに手を伸ばした。

 すると、声が言った。

 「それが、あなたの選ぶ未来?」

 「えっ?」

 「選びなさい。どのスクリーンを生きるのか」

 そう言われて、私は初めて周囲を見回した。

 すると、気づいた。

 スクリーンは、一つじゃなかった。

 さっきまで暗かった部屋のあちこちに、いくつものスクリーンが並んでいた。
 それぞれに違う映像が映っている。

 一つのスクリーンには、私が泣きながら電話をしている姿。
 別のスクリーンには、結菜が戻ってこないまま、一人で食事をしている私。
 そして、さらに別のスクリーンには、知らない街で新しい人生を始めている私が映っていた。

 どのスクリーンも、同じ「私」なのに、まったく違う人生を生きている。

 「……どれでも、選べるの?」

 私は半信半疑で聞いた。

 すると、声は優しくこう言った。

 「あなたがどこに意識を向けるかで、現実は決まる」

 「……現実は、決まっていないってこと?」

 「そう。すべては、あなたの選択」

 私はしばらく黙っていた。

 たくさんの未来の中から、私はどれを選ぶのか。
 結菜と一緒にいる未来か、そうでない未来か。
 幸せな私か、苦しみ続ける私か。

 どの未来を選ぶかは、私の意識次第。

 ――なら、決まってるじゃない。

 私は、最初に見たスクリーンに向かって、手を伸ばした。

 「私は、この未来を生きる」

 そう言った瞬間、スクリーンが眩しく光り、私はその中へ吸い込まれていった。

 ***

 目が覚めたとき、私は心臓がドキドキしていた。

 夢のことはハッキリ覚えている。
 スクリーン、選択、たくさんの未来。

 私は、どの未来も可能性として存在していることを、夢の中で確かに感じた。

 そして、気づいた。

 「私は、結菜と一緒に暮らす未来を選ぶ」

 まだ、どうすればそうなるのかはわからない。
 でも、私はその未来を信じることにした。

 夢の中の声は、きっと私を導いてくれたのだ。

 「この世界は、私が選べる」

 そう思った瞬間、私は少しだけ希望が見えた気がした。