8.『職場での試練~揺らぐ決意、試される信念~』【理不尽な世界の攻略法~望むシナリオを選択する~】

理不尽な世界の攻略法~望むシナリオを選択する~

第8話『職場での試練~揺らぐ決意、試される信念~』

春の風がやわらかく吹く朝、私はいつものように通勤電車に揺られていた。
車窓から流れる風景は、いつもと変わらないはずなのに、どこか少し違って見えた。
駅のホームで見かけた赤ちゃんを抱いた若いお母さんの姿に目が留まり、思わず「美月もあんな風に小さかったなぁ…」と懐かしさが胸をよぎった。

職場に着くと、空気が少しピリピリしていた。
月初めの会議がある日で、上司たちがせわしなく動いていた。
私はいつものようにデスクに座り、パソコンを立ち上げ、メールを確認した。

そこには一通、見慣れない名前からのメールが届いていた。

『○○課長より、今後の業務分担に関するご相談』

なんとなく嫌な予感がした。
開いてみると、案の定——
私の担当業務が一部外され、別の若い社員に引き継がれるという内容だった。

「やっぱり、私…信頼されてないんだろうか」

心がじわっと沈んでいった。
ここ最近、頑張ってるつもりだったのに、結果がついてこない。
しかも、それを誰かに直接伝えられるのではなく、メールで知らされるというのも、なんだか余計に寂しかった。

お昼休み、食堂で一緒に食べていた美香ちゃんにそれとなく聞いてみた。

「ねぇ…私、何か周りに迷惑かけてるのかな?」

美香ちゃんは箸を止めて、ちょっと困ったような顔で言った。

「ううん、そんなことないよ。でも…上は“私生活の問題が落ち着くまで”って考えてるみたい。心配されてるのかもしれないけど、ちょっと一方的かもね。」

私生活——つまり、美月のこと。
分かってる、分かってるけど…その“配慮”が余計にプレッシャーになることだってあるのに。

午後の仕事中、ぼーっとしていたのか、請求データの入力でミスをしてしまった。
上司に呼ばれ、軽く注意されただけなのに、なぜか心が折れそうになった。

「自分で選んだ現実を生きるって決めたのに、なんでこんなに揺らいでしまうんだろう…」

そう思いながらトイレの個室で、しばらく動けずにいた。
誰にも見られないように、こっそり涙をぬぐった。

帰り道、駅のホームで電車を待ちながら、ふとスマホを開いた。
そこにはタフティメソッドの投稿アカウントからのメッセージが流れていた。

『あなたの信念が揺らぐときこそ、現実が大きく変わる前兆です。あきらめないで。』

その言葉に、心が少しだけ浮かび上がった。
今の私は、まさに揺らいでいる。でもそれは、変化の入口に立っている証拠なのかもしれない。

家に帰って、タロットカードを引いた。「力」のカードだった。

「そうだ、私は弱くない。むしろ、いま自分と向き合ってる。」

鏡に映った自分に向かって、そう小さくつぶやいた。

夜、布団の中で今日の出来事を振り返った。
たしかに傷ついたし、落ち込んだ。でも、まだ終わりじゃない。
私は、まだ途中なんだ。

そして思い出した。美月が幼いころ、補助輪を外して自転車の練習をしていた日。

「お母さん、こわい!転びそう!」

そう叫びながらも、何度もチャレンジしていた美月の姿が、今の私と重なって見えた。

「私も、転びながらでも進めばいいんだよね。」

そう思えたら、また少しだけ、明日が楽しみになってきた。

人生は、すぐに好転することばかりじゃない。
でも、こうやって一歩一歩、自分を取り戻していくことがきっと大事なんだと、私は信じていた。