7. 見えない存在からの導き【理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~】

理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~

第2章:不思議なメッセージ

7. 見えない存在からの導き

 最近、不思議なことがよく起こる。

 タフティメソッドのことを知ってから、私は意識して「スクリーンの向こう側にいる自分」を想像するようにしていた。
 でも、それが本当に効果があるのかどうかは、正直よくわからない。

 とはいえ、何もしないよりはマシだろうと、今日もぼんやりと「私は結菜とまた一緒に暮らしている」という未来を思い描いていた。

 そんなある日のこと。

 私は仕事帰りに、近所の神社に立ち寄った。
 別に特別な理由があったわけではない。
 なんとなく、そこに行きたくなっただけだ。

 境内に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が心地よかった。
 大きな木々が並び、風がざわざわと葉を揺らしている。

 私は静かに手を合わせた。

 (どうか、結菜を無事に家に戻してください)

 そんなに信心深いわけじゃないけれど、こういうとき、人は無意識に神様に頼るものだ。

 手を合わせたまま、ふと目を開けると、隣に誰かが立っていた。

 「……ん?」

 振り向くと、そこには見知らぬ男性がいた。

 年齢は60代くらいだろうか。
 背が高く、白いシャツにグレーのパンツというシンプルな格好。
 やたらと姿勢がよく、静かに微笑んでいた。

 「こんにちは」

 突然、声をかけられた。

 私は一瞬、驚いたが、なんとなく嫌な感じはしなかった。

 「こんにちは……」

 すると、その男性はこう言った。

 「あなた、最近、大変なことがありましたね」

 私はギョッとした。

 「えっ……なんでわかるんですか?」

 男性は微笑んだまま、静かに言った。

 「ここに来る人の中には、導かれるように来る人がいるんです」

 私は、妙に納得してしまった。

 「あなたは、今、人生の大きな分岐点にいますね」

 その言葉に、私はゴクリと喉を鳴らした。

 「ええ、まぁ……」

 「あなた、最近『現実は変えられる』ということに気づき始めましたね?」

 私は驚きすぎて、一瞬言葉を失った。

 「……えっ、えっ!? なんでそれ知ってるんですか!?」

 男性はクスッと笑った。

 「私はただ、あなたのエネルギーを見ているだけですよ」

 エネルギー? そんなものが見えるのか?

 「あなたの意識が変われば、あなたの世界も変わります」

 その言葉を聞いて、私はますます鳥肌が立った。
 まるで佐伯さんが言っていたことと同じだ。

 「でも、現実ってそんなに簡単に変わるものなんですか?」

 男性はゆっくりと頷いた。

 「難しく考えなくてもいいんですよ。ただ、自分がどの世界に生きるのかを選べばいいんです」

 私は思わずため息をついた。

 「選ぶ……でも、私の現実はあまりにも理不尽で……」

 「それでも、あなたには選ぶ力がありますよ」

 そう言いながら、男性は私の肩をポンと軽く叩いた。

 「あなたは、もう少しで本当に大切なことに気づきます」

 「えっ?」

 「それまで、焦らず、ゆっくり進んでください」

 私は、その言葉を反芻した。

 本当に大切なこと……?

 気がつけば、男性は私の前から姿を消していた。

 私は周囲を見回したが、境内には私以外に誰もいなかった。

 (えっ、えっ? どこ行ったの!?)

 まるで、最初から存在しなかったかのように、その男性はいなくなっていた。

 私はぼんやりとしたまま、神社の鳥居をくぐり、帰路についた。

 あの人は、いったい誰だったのか。
 そして、「もう少しで大切なことに気づく」って、どういう意味だったのか。

 なんだか頭が混乱していたけれど、不思議と心は落ち着いていた。

 私は、自分の人生を本当に変えられるのかもしれない。
 そんな気がしてきた。

 見えない存在が、私を導こうとしているのだとしたら――

 私は、その流れに乗ってみることにした。