第2章:不思議なメッセージ
7. 見えない存在からの導き
最近、不思議なことがよく起こる。
タフティメソッドのことを知ってから、私は意識して「スクリーンの向こう側にいる自分」を想像するようにしていた。
でも、それが本当に効果があるのかどうかは、正直よくわからない。
とはいえ、何もしないよりはマシだろうと、今日もぼんやりと「私は結菜とまた一緒に暮らしている」という未来を思い描いていた。
そんなある日のこと。
私は仕事帰りに、近所の神社に立ち寄った。
別に特別な理由があったわけではない。
なんとなく、そこに行きたくなっただけだ。
境内に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が心地よかった。
大きな木々が並び、風がざわざわと葉を揺らしている。
私は静かに手を合わせた。
(どうか、結菜を無事に家に戻してください)
そんなに信心深いわけじゃないけれど、こういうとき、人は無意識に神様に頼るものだ。
手を合わせたまま、ふと目を開けると、隣に誰かが立っていた。
「……ん?」
振り向くと、そこには見知らぬ男性がいた。
年齢は60代くらいだろうか。
背が高く、白いシャツにグレーのパンツというシンプルな格好。
やたらと姿勢がよく、静かに微笑んでいた。
「こんにちは」
突然、声をかけられた。
私は一瞬、驚いたが、なんとなく嫌な感じはしなかった。
「こんにちは……」
すると、その男性はこう言った。
「あなた、最近、大変なことがありましたね」
私はギョッとした。
「えっ……なんでわかるんですか?」
男性は微笑んだまま、静かに言った。
「ここに来る人の中には、導かれるように来る人がいるんです」
私は、妙に納得してしまった。
「あなたは、今、人生の大きな分岐点にいますね」
その言葉に、私はゴクリと喉を鳴らした。
「ええ、まぁ……」
「あなた、最近『現実は変えられる』ということに気づき始めましたね?」
私は驚きすぎて、一瞬言葉を失った。
「……えっ、えっ!? なんでそれ知ってるんですか!?」
男性はクスッと笑った。
「私はただ、あなたのエネルギーを見ているだけですよ」
エネルギー? そんなものが見えるのか?
「あなたの意識が変われば、あなたの世界も変わります」
その言葉を聞いて、私はますます鳥肌が立った。
まるで佐伯さんが言っていたことと同じだ。
「でも、現実ってそんなに簡単に変わるものなんですか?」
男性はゆっくりと頷いた。
「難しく考えなくてもいいんですよ。ただ、自分がどの世界に生きるのかを選べばいいんです」
私は思わずため息をついた。
「選ぶ……でも、私の現実はあまりにも理不尽で……」
「それでも、あなたには選ぶ力がありますよ」
そう言いながら、男性は私の肩をポンと軽く叩いた。
「あなたは、もう少しで本当に大切なことに気づきます」
「えっ?」
「それまで、焦らず、ゆっくり進んでください」
私は、その言葉を反芻した。
本当に大切なこと……?
気がつけば、男性は私の前から姿を消していた。
私は周囲を見回したが、境内には私以外に誰もいなかった。
(えっ、えっ? どこ行ったの!?)
まるで、最初から存在しなかったかのように、その男性はいなくなっていた。
私はぼんやりとしたまま、神社の鳥居をくぐり、帰路についた。
あの人は、いったい誰だったのか。
そして、「もう少しで大切なことに気づく」って、どういう意味だったのか。
なんだか頭が混乱していたけれど、不思議と心は落ち着いていた。
私は、自分の人生を本当に変えられるのかもしれない。
そんな気がしてきた。
見えない存在が、私を導こうとしているのだとしたら――
私は、その流れに乗ってみることにした。