6. 「あなたの人生、変えられるよ」【理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~】

理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~

第2章:不思議なメッセージ

6. 「あなたの人生、変えられるよ」

 その日、私は朝からソワソワしていた。

 昨日の佐伯さんとの会話が、頭の中でぐるぐる回っていたからだ。
 「あなたの意識が現実を作っている」
 「あなたが選べば、未来は変わる」

 そんなこと言われても、現実は現実だし、簡単に変えられるもんじゃない。
 でも、もし本当にそうなら?

 私は洗濯物を干しながら考えた。
 「スクリーンの意識を持つ」ってどういうことなんだろう?

 タロットみたいに、未来は固定されているわけじゃなくて、
 引くカード次第で変わるものなのか?

 私はそんなことを考えながら、スマホを手に取った。
 ふと、占いの予約が一件入っていることに気づく。
 週末の占い師としての仕事は、今の私にとって唯一の「いつも通りのこと」だった。

 「よし、占いに集中しよう」

 気持ちを切り替えて、私はタロットテーブルをセットした。

 ――ピンポーン。

 インターホンが鳴る。
 今日は、オンラインじゃなくて対面での占いだ。
 玄関を開けると、そこには小柄な女性が立っていた。

 「こんにちは……」

 声がやけに静かだ。
 年齢は30代半ばくらい。小さなバッグを大事そうに抱えている。

 「どうぞ、お入りください」

 リビングに案内すると、彼女は緊張した様子で椅子に座った。

 「今日はどんなお悩みですか?」

 すると彼女は、小さな声でこう言った。

 「私……自分の人生を変えたいんです」

 私は少し驚いた。
 「人生を変えたい」なんて、普段のお客さんからはあまり聞かないセリフだった。

 「変えたい、というのは?」

 「ずっと同じ毎日を繰り返していて……何をやってもうまくいかなくて……」

 彼女は視線を落としながら話した。

 「仕事もつまらなくて、恋愛もうまくいかなくて。
 周りの人がどんどん幸せになっていくのを見てると、なんだか取り残された気がして……」

 私は少し考えてから、タロットカードをシャッフルした。

 「じゃあ、今のあなたに必要なメッセージを見てみましょうか」

 彼女はコクリとうなずいた。

 一枚引いて、めくる。

 「魔術師(マジシャン)」

 私は、思わず微笑んだ。

 「いいカードですね」

 「え?」

 「これは、『あなたにはすべての力がそろっている』って意味のカードなんです」

 彼女は、驚いた顔をした。

 「でも、私、何も持ってないし……」

 「本当に?」

 私はカードを指でトントンと叩いた。

 「このカードの魔術師は、剣もカップもコインも杖も、全部持ってるんです。
 つまり、あなたにはもう、人生を変えるための道具がそろってるんですよ」

 彼女は不安そうに眉をひそめた。

 「でも、何をすればいいのか、わからなくて……」

 私は一度深呼吸して、こう言った。

 「あなたの人生は、あなたが選べるんですよ」

 彼女はじっと私を見つめた。

 「選べる……?」

 「はい。もしも、『私は幸せになれない』って思っていたら、
 そのスクリーンに映るのは、不幸な映像ばかりになります」

 「スクリーン……?」

 「あ、すみません、ちょっと変な話に聞こえるかもしれませんけど……
 最近、ある方法を知ったんです。
 『タフティメソッド』っていうんですけど」

 私は佐伯さんから聞いた話を、彼女に伝えた。

 「人生って、映画のスクリーンみたいなもので、
 私たちはただ映像を眺めているんじゃなくて、
 本当はどの映画を見るか、選べるんじゃないかって」

 彼女は、真剣な顔で聞いていた。

 「……私も、変えられるんでしょうか?」

 私は、静かにうなずいた。

 「変えられますよ。だって、魔術師のカードが出たんですから」

 彼女は、ふっと笑った。

 「……なんだか、少し希望が持てました」

 私は、その言葉を聞いて、少しホッとした。

 「じゃあ、今日から少しずつでもいいので、『私は変われる』って思ってみてください」

 彼女は深くうなずいた。

 占いが終わり、彼女を玄関まで見送る。
 扉が閉まったあと、私はしばらくぼんやりしていた。

 「あなたの人生、変えられるよ」

 さっき、私はそう言った。
 でも、本当は私自身に言い聞かせていたのかもしれない。

 結菜を取り戻すには、今までと同じやり方ではダメなんだろう。
 私が変わらなきゃいけない。

 スクリーンを変える。
 それが、本当にできるのなら……

 私は、試してみる価値はあると思った。

 ――あなたの人生、変えられるよ。

 その言葉が、心の中にじんわりと広がっていった。