第5話『動き出すシンクロニシティ~偶然を味方につける~』
次の日の朝、私はいつもよりゆっくりコーヒーを淹れていた。
香ばしい香りが台所に広がっていく。
その香りの中で、なんだか心が落ち着いてくるのを感じた。
昨日までの私は、時間に追われ、息をするのも忘れるような日々だったけれど、今日は少しだけ余裕がある気がした。
ふとスマホを手に取ると、SNSにこんな言葉が流れてきた。
『偶然の出来事は、宇宙からの小さなメッセージ。気づけた人から流れが変わる』
その投稿を読んだ瞬間、「あれ?」と思った。昨日公園で出会ったあのおばあさん。
あれもきっと偶然じゃない。
これは私に「気づいて」と言ってくれているサインだったのかもしれない。
気持ちがふわりと軽くなった私は、その日、近くの小さな神社に立ち寄ってみた。
普段なら素通りしてしまう場所なのに、今日は何かに呼ばれるように足が向いた。
境内に入ると、小さな風鈴の音が涼やかに響いていた。
「よく来たね」
振り向くと、巫女さんが笑顔で立っていた。
偶然なのか必然なのか…
そのとき、巫女さんは私に小さなお守りを手渡してくれた。
「これ、特別なお守りです。今、あなたに必要なものがきっと見つかりますよ」
なんだか不思議な気持ちになりながら、お守りを受け取った。
袋をそっと開けてみると、中に小さな紙が入っていた。
そこにはこう書かれていた。
『迷わず進め。道はあなたの足元から現れる』
胸がじんわりと熱くなった。
その足で帰宅すると、ポストに一通の封筒が届いていた。
差出人は、もう何年も会っていない大学時代の親友・さゆりからだった。
驚いて封を開けると、手紙の中には「久しぶりに会いたいな」というメッセージが。
なんでこのタイミングで…?
偶然が重なるなんて、こんなことがあるんだろうか。
その週末、さゆりと再会した。
カフェでコーヒーを飲みながら、昔話に花が咲いた。
私が抱えている悩みも、自然と口から出ていた。
さゆりは真剣に話を聞いてくれ、そしてこう言った。
「彩香、あんたはもっと自分を信じていいんだよ。
だって昔から、あんたは困った時に必ず誰かを助けてきたじゃない。
今度は自分を助ける番だよ。」
さゆりの言葉は、私の胸にまっすぐ届いた。
涙が溢れそうになり、私はそっとハンカチで目元を押さえた。
帰り道、不思議なくらい空が澄んでいた。
信号で立ち止まったとき、電柱に貼られたポスターが目に入った。
『親子支援相談会 今週末開催』
また偶然。いや、もう偶然じゃない。
これは流れが動き出している証拠だ。
私はスマホを取り出してすぐにそのイベントに申し込んだ。
夜、自宅でタロットカードを広げてみた。
今の私に必要なメッセージを求めて、一枚引いた。
そのカードは「運命の輪」だった。
運命の輪は、流れが変わるタイミングを示すカード。
心が震えるような感覚があった。
「大丈夫。流れは私に味方してくれてる。」
そうつぶやいて、私は深呼吸をした。
偶然のようでいて、すべてが繋がっている。
それに気づいた瞬間、心が軽くなった。
次の日、職場で思いがけないことが起きた。
冷たかった上司が、私に向かってこう言ったのだ。
「最近、少し元気が戻ってきたようだね。何かあれば、言ってくれよ」
その言葉に驚きつつも、私は「ありがとうございます」と微笑んだ。
小さな変化が、いくつも重なっていく。
それは偶然じゃなく、私が意識を変えたからこそ起きているんだと、ようやく理解できた。
そして、これからもっとたくさんのシンクロニシティが訪れる予感がしてならなかった。