第6章:新しい現実へ
30. 理不尽さを超えた先にあるもの
夜、結菜が眠ったあと、私はリビングのソファでぼんやりしていた。
ふと、ここまでの道のりを思い返してみる。
結菜と離れたあの日から、いろんなことがあった。
「どうして私ばかりこんな目に遭うの?」と悔しくて泣いたこともあった。
世の中の理不尽さが恨めしくて仕方なかったこともある。
でも――今、私は思う。
「理不尽さを超えた先には、想像もしなかった世界が広がっているんだな」
私はソファに深く座り直し、静かに目を閉じた。
結菜が戻ってきてからの毎日は、以前とはまるで違う。
忙しさや大変なことはあるけれど、「大丈夫」と思える自分がいる。
「不思議だなぁ……」
あの頃の私は、現実に振り回されてばかりだった。
「なんでこんなことが起こるの?」と考えれば考えるほど、どんどん苦しくなっていった。
でも、あるとき気づいた。
「現実を変えようとするのではなく、自分の意識を変えればいいんだ」
この世界は、自分が何を見るかで変わる。
理不尽なことが起こっても、それを「最悪だ」と思うか、「これは何かのサインだ」と思うかで、未来は変わるのだ。
そう気づいたときから、少しずつ、少しずつ、私の世界は変わり始めた。
***
「ママ、何してるの?」
気がつくと、結菜が眠そうな顔でリビングに立っていた。
「どうしたの、眠れなかった?」
「ちょっとだけ。ママ、なんか考えごとしてた?」
私は、ふふっと笑った。
「うん、いろんなことを思い出してたんだ」
「昔のこと?」
「そう。結菜と離れてた頃のこととか、前のママのこととかね」
結菜は、私の隣にちょこんと座った。
「ねえ、ママ」
「うん?」
「前のママって、今のママと全然違うの?」
「うーん……そうだね」
私はしばらく考えてから言った。
「前のママは、いつも『なんで?』って思ってた」
「なんで?」
「ほら、また『なんで?』って聞いてる」
結菜はクスクスと笑った。
「『なんでこんなに大変なの?』とか、『なんで私ばっかり?』とかね」
「ふーん……」
「でも今のママはね、『これにはどんな意味があるんだろう?』って思うようになったんだ」
「意味?」
「そう。どんな出来事にも、意味があるんだよ」
私は、結菜の手をそっと握った。
「結菜と離れてたことも、あのときはすごくつらかったけど、今思えば、ママにとってすごく大切な時間だったんだ」
「どうして?」
「だって、ママはあのとき初めて、本当に自分と向き合ったから」
結菜は少し考えてから、静かにうなずいた。
「じゃあさ、ママが昔大変だったのは、今のママになるためだったの?」
私は、その言葉にハッとした。
「……そうかも」
結菜は満足そうに笑った。
「じゃあ、それでよかったね!」
私は、その言葉にじんわりと胸が温かくなった。
「うん、そうだね」
***
結菜を寝室へ送り、私はもう一度ソファに座った。
「そうか、そうだったんだ」
私は、自分が歩んできた道を振り返りながら、改めて思った。
理不尽な出来事は、誰の人生にも起こる。
思い通りにならないこと、納得できないこと、どうしても許せないこと……。
でも、それを「ただの不運」として終わらせるのか、
「これにはどんな意味があるんだろう?」と考えるのかで、人生の流れは変わる。
私は、以前の私とは違う。
私はもう、「被害者」ではない。
私は、この世界の「創造者」なのだ。
***
次の日の朝、私はいつもより少し早く目が覚めた。
カーテンを開けると、朝日が部屋の中に差し込んできた。
「よし、今日もいい日になる」
私は、そう決めた。
結菜が眠そうな顔でリビングにやってくる。
「おはよ、ママ……」
「おはよう、結菜!」
「今日はなにするの?」
「うーん、楽しいことをしよう!」
結菜は嬉しそうに笑った。
「いいね!」
私は、結菜の手をとってぎゅっと握った。
「理不尽さを超えた先にあったもの――それは、どんな現実も自分で創れるという確信だった。」
私はもう、何があっても大丈夫だ。
これからも、自分のスクリーンに、最高の物語を映していこう。
結菜と一緒に。
私は、心からそう思った。