30. 理不尽さを超えた先にあるもの【理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~】

理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~

第6章:新しい現実へ

30. 理不尽さを超えた先にあるもの

 夜、結菜が眠ったあと、私はリビングのソファでぼんやりしていた。

 ふと、ここまでの道のりを思い返してみる。

 結菜と離れたあの日から、いろんなことがあった。
 「どうして私ばかりこんな目に遭うの?」と悔しくて泣いたこともあった。
 世の中の理不尽さが恨めしくて仕方なかったこともある。

 でも――今、私は思う。

 「理不尽さを超えた先には、想像もしなかった世界が広がっているんだな」

 私はソファに深く座り直し、静かに目を閉じた。

 結菜が戻ってきてからの毎日は、以前とはまるで違う。
 忙しさや大変なことはあるけれど、「大丈夫」と思える自分がいる。

 「不思議だなぁ……」

 あの頃の私は、現実に振り回されてばかりだった。
 「なんでこんなことが起こるの?」と考えれば考えるほど、どんどん苦しくなっていった。

 でも、あるとき気づいた。

 「現実を変えようとするのではなく、自分の意識を変えればいいんだ」

 この世界は、自分が何を見るかで変わる。
 理不尽なことが起こっても、それを「最悪だ」と思うか、「これは何かのサインだ」と思うかで、未来は変わるのだ。

 そう気づいたときから、少しずつ、少しずつ、私の世界は変わり始めた。

 ***

 「ママ、何してるの?」

 気がつくと、結菜が眠そうな顔でリビングに立っていた。

 「どうしたの、眠れなかった?」

 「ちょっとだけ。ママ、なんか考えごとしてた?」

 私は、ふふっと笑った。

 「うん、いろんなことを思い出してたんだ」

 「昔のこと?」

 「そう。結菜と離れてた頃のこととか、前のママのこととかね」

 結菜は、私の隣にちょこんと座った。

 「ねえ、ママ」

 「うん?」

 「前のママって、今のママと全然違うの?」

 「うーん……そうだね」

 私はしばらく考えてから言った。

 「前のママは、いつも『なんで?』って思ってた」

 「なんで?」

 「ほら、また『なんで?』って聞いてる」

 結菜はクスクスと笑った。

 「『なんでこんなに大変なの?』とか、『なんで私ばっかり?』とかね」

 「ふーん……」

 「でも今のママはね、『これにはどんな意味があるんだろう?』って思うようになったんだ」

 「意味?」

 「そう。どんな出来事にも、意味があるんだよ」

 私は、結菜の手をそっと握った。

 「結菜と離れてたことも、あのときはすごくつらかったけど、今思えば、ママにとってすごく大切な時間だったんだ」

 「どうして?」

 「だって、ママはあのとき初めて、本当に自分と向き合ったから」

 結菜は少し考えてから、静かにうなずいた。

 「じゃあさ、ママが昔大変だったのは、今のママになるためだったの?」

 私は、その言葉にハッとした。

 「……そうかも」

 結菜は満足そうに笑った。

 「じゃあ、それでよかったね!」

 私は、その言葉にじんわりと胸が温かくなった。

 「うん、そうだね」

 ***

 結菜を寝室へ送り、私はもう一度ソファに座った。

 「そうか、そうだったんだ」

 私は、自分が歩んできた道を振り返りながら、改めて思った。

 理不尽な出来事は、誰の人生にも起こる。
 思い通りにならないこと、納得できないこと、どうしても許せないこと……。

 でも、それを「ただの不運」として終わらせるのか、
 「これにはどんな意味があるんだろう?」と考えるのかで、人生の流れは変わる。

 私は、以前の私とは違う。

 私はもう、「被害者」ではない。

 私は、この世界の「創造者」なのだ。

 ***

 次の日の朝、私はいつもより少し早く目が覚めた。

 カーテンを開けると、朝日が部屋の中に差し込んできた。

 「よし、今日もいい日になる」

 私は、そう決めた。

 結菜が眠そうな顔でリビングにやってくる。

 「おはよ、ママ……」

 「おはよう、結菜!」

 「今日はなにするの?」

 「うーん、楽しいことをしよう!」

 結菜は嬉しそうに笑った。

 「いいね!」

 私は、結菜の手をとってぎゅっと握った。

 「理不尽さを超えた先にあったもの――それは、どんな現実も自分で創れるという確信だった。」

 私はもう、何があっても大丈夫だ。

 これからも、自分のスクリーンに、最高の物語を映していこう。

 結菜と一緒に。

 私は、心からそう思った。