3. 母親失格のレッテル【理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~】

理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~

第1章:理不尽な世界に囚われて

3. 母親失格のレッテル

 児童相談所での話し合いが終わったあと、私はどっと疲れ果てていた。
 結菜には会えなかった。
 会うためには「生活環境の改善が必要」だと言われたが、具体的にどうすればいいのかは、はっきりしなかった。

 それにしても、「母親失格」と言われたような気がして、なんだか悔しい。
 私は必死に働いてきた。結菜のために、毎日がんばってきた。
 それなのに、気づけば「子どもを放置するダメな母親」というレッテルを貼られてしまった。

 そんな気分を抱えたまま、私は家に帰った。
 カギを開けて、部屋に入る。

 ……静かだ。

 いつもなら、「おかえり~」と適当に挨拶しながら、YouTubeを見ている結菜がいるはずなのに。
 それが、いない。

 冷蔵庫を開けると、作り置きのごはんがそのまま残っていた。
 いつもは学校から帰ると、すぐに温めて食べていたのに。
 食べる人がいないと、冷蔵庫の中の食材がなんだか寂しそうに見える。

 ソファに座ってスマホを開くと、SNSには子どもと楽しそうに過ごす友人たちの投稿が並んでいた。
 「今日は息子と一緒にパンケーキ作り♡」
 「家族で映画! 幸せ~」

 それを見た瞬間、私はスマホを放り投げた。

 なんなんだ、この世界は。

 家族みんなで仲良く過ごしている人が正しくて、仕事をしながら子どもを育てている私は間違っているのか?
 私は結菜のために働いていただけなのに、どうしてこんなことになったんだろう。

 そのとき、スマホが震えた。

 画面を見ると、結菜の名前が表示されていた。

 私は慌てて電話を取った。

 「結菜! どう? 大丈夫?」

 「……うん」

 結菜の声は、いつもより元気がなかった。

 「結菜、ごめんね。急にこんなことになって……」

 「うん……」

 どうすればいいのかわからなかった。
 でも、何か言わなければと思い、私は必死に言葉を探した。

 「何か困ってることある?」

 「ううん、大丈夫」

 その「大丈夫」が、本当に大丈夫じゃないことはわかっていた。
 でも、それ以上何を聞いていいのか、わからなかった。

 「ママ、いつ迎えに来てくれる?」

 私は息をのんだ。

 「……がんばるから、もう少しだけ待ってて」

 「そっか……」

 静かに電話が切れた。

 私はスマホをぎゅっと握りしめた。

 結菜を返してもらうために、私は何をすればいいのか。
 児童相談所では「生活環境を整えることが大切」と言われた。
 でも、私は今の生活を変えられるのか?

 結菜のために仕事をしているのに、仕事があるせいで結菜を失うのか?
 どうすればいいんだろう。

 そのとき、ふと、机の上に置いてあったタロットカードが目に入った。

 私は占い師として、副業をしている。
 週末だけの仕事だが、悩みを抱えた人たちにメッセージを届けることで、少しでも誰かの力になりたいと思っていた。

 でも、今は……私がメッセージをもらいたい。

 私はカードを手に取り、シャッフルした。
 「私に必要なメッセージをください」

 一枚引いたカードを、そっとめくる。

 「塔(タワー)」

 ……最悪だ。

 塔のカードは、「崩壊」「ショック」「大きな変化」を意味する。
 つまり、今の私の状況そのものだ。

 私は思わずため息をついた。

 「もう崩壊してるんですけど」

 でも、塔のカードはただの不幸を意味するわけではない。
 何かを壊すことで、新しいものが生まれる。
 今の私は、人生の転換点に立っているのかもしれない。

 それなら、私はどうすればいいのか?

 そのとき、ふと、数日前に見た夢のことを思い出した。

 夢の中で、私は真っ暗な部屋にいた。
 そこに、一人の男性が現れてこう言った。

 「この世界はスクリーンだ。お前の意識が現実を作っている」

 その言葉の意味が、今になって気になった。

 私はスマホを手に取り、「意識 現実 変える」と検索した。
 すると、あるブログの記事が目に入った。

 「タフティメソッド ~現実は操作できる~」

 ……なんだそれ?

 私は興味を持ち、その記事を読み始めた。
 すると、「スクリーンの意識を持つことで、現実が変わる」と書かれていた。

 「……スクリーンの意識?」

 これは、あの夢の中の言葉と同じじゃないか。

 偶然なのか、それとも何かのメッセージなのか。

 私は、スマホの画面をじっと見つめた。

 この理不尽な状況を変える方法が、もしかしたらここにあるのかもしれない。