第1章:理不尽な世界に囚われて
3. 母親失格のレッテル
児童相談所での話し合いが終わったあと、私はどっと疲れ果てていた。
結菜には会えなかった。
会うためには「生活環境の改善が必要」だと言われたが、具体的にどうすればいいのかは、はっきりしなかった。
それにしても、「母親失格」と言われたような気がして、なんだか悔しい。
私は必死に働いてきた。結菜のために、毎日がんばってきた。
それなのに、気づけば「子どもを放置するダメな母親」というレッテルを貼られてしまった。
そんな気分を抱えたまま、私は家に帰った。
カギを開けて、部屋に入る。
……静かだ。
いつもなら、「おかえり~」と適当に挨拶しながら、YouTubeを見ている結菜がいるはずなのに。
それが、いない。
冷蔵庫を開けると、作り置きのごはんがそのまま残っていた。
いつもは学校から帰ると、すぐに温めて食べていたのに。
食べる人がいないと、冷蔵庫の中の食材がなんだか寂しそうに見える。
ソファに座ってスマホを開くと、SNSには子どもと楽しそうに過ごす友人たちの投稿が並んでいた。
「今日は息子と一緒にパンケーキ作り♡」
「家族で映画! 幸せ~」
それを見た瞬間、私はスマホを放り投げた。
なんなんだ、この世界は。
家族みんなで仲良く過ごしている人が正しくて、仕事をしながら子どもを育てている私は間違っているのか?
私は結菜のために働いていただけなのに、どうしてこんなことになったんだろう。
そのとき、スマホが震えた。
画面を見ると、結菜の名前が表示されていた。
私は慌てて電話を取った。
「結菜! どう? 大丈夫?」
「……うん」
結菜の声は、いつもより元気がなかった。
「結菜、ごめんね。急にこんなことになって……」
「うん……」
どうすればいいのかわからなかった。
でも、何か言わなければと思い、私は必死に言葉を探した。
「何か困ってることある?」
「ううん、大丈夫」
その「大丈夫」が、本当に大丈夫じゃないことはわかっていた。
でも、それ以上何を聞いていいのか、わからなかった。
「ママ、いつ迎えに来てくれる?」
私は息をのんだ。
「……がんばるから、もう少しだけ待ってて」
「そっか……」
静かに電話が切れた。
私はスマホをぎゅっと握りしめた。
結菜を返してもらうために、私は何をすればいいのか。
児童相談所では「生活環境を整えることが大切」と言われた。
でも、私は今の生活を変えられるのか?
結菜のために仕事をしているのに、仕事があるせいで結菜を失うのか?
どうすればいいんだろう。
そのとき、ふと、机の上に置いてあったタロットカードが目に入った。
私は占い師として、副業をしている。
週末だけの仕事だが、悩みを抱えた人たちにメッセージを届けることで、少しでも誰かの力になりたいと思っていた。
でも、今は……私がメッセージをもらいたい。
私はカードを手に取り、シャッフルした。
「私に必要なメッセージをください」
一枚引いたカードを、そっとめくる。
「塔(タワー)」
……最悪だ。
塔のカードは、「崩壊」「ショック」「大きな変化」を意味する。
つまり、今の私の状況そのものだ。
私は思わずため息をついた。
「もう崩壊してるんですけど」
でも、塔のカードはただの不幸を意味するわけではない。
何かを壊すことで、新しいものが生まれる。
今の私は、人生の転換点に立っているのかもしれない。
それなら、私はどうすればいいのか?
そのとき、ふと、数日前に見た夢のことを思い出した。
夢の中で、私は真っ暗な部屋にいた。
そこに、一人の男性が現れてこう言った。
「この世界はスクリーンだ。お前の意識が現実を作っている」
その言葉の意味が、今になって気になった。
私はスマホを手に取り、「意識 現実 変える」と検索した。
すると、あるブログの記事が目に入った。
「タフティメソッド ~現実は操作できる~」
……なんだそれ?
私は興味を持ち、その記事を読み始めた。
すると、「スクリーンの意識を持つことで、現実が変わる」と書かれていた。
「……スクリーンの意識?」
これは、あの夢の中の言葉と同じじゃないか。
偶然なのか、それとも何かのメッセージなのか。
私は、スマホの画面をじっと見つめた。
この理不尽な状況を変える方法が、もしかしたらここにあるのかもしれない。