28. この世界は私のスクリーン【理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~】

理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~

第6章:新しい現実へ

28. この世界は私のスクリーン

 結菜が帰ってきて、数日が経った。

 朝起きると、キッチンから小さな音が聞こえてくる。

 「またか……」

 私はそっと布団から出て、リビングへ向かった。

 そこには、食パンにバターを塗ろうとしている結菜の姿があった。

 「結菜、おはよう」

 「ママ、おはよ! 今日はちゃんとバター塗れたよ!」

 テーブルには、すでに私の分のパンと牛乳も置かれていた。

 私は、その光景を見て、胸の奥がじんわりと温かくなった。

 「ありがとう。じゃあ、今日はスクランブルエッグも作っちゃおうか?」

 「うん!」

 結菜が元気に頷く。

 以前の私は、朝ごはんなんて適当に済ませることが多かった。
 仕事に追われて、結菜とゆっくり朝食を食べる時間さえなかった。

 でも今は違う。

 私は、この時間を心から大切にしたいと思っている。

 「ねえ、ママ」

 卵を混ぜながら、結菜がふと聞いた。

 「ママって、最近すごく変わったよね」

 私は、手を止めて結菜を見た。

 「変わった?」

 「うん。なんかね、前より優しくなったっていうか……落ち着いてるっていうか……。前はいつも忙しそうで、なんかピリピリしてた感じがする」

 「そうだった?」

 「うん。でも今のママは、なんかフワフワしてる」

 私は、その言葉に思わず笑ってしまった。

 「フワフワかぁ。でも、それっていいこと?」

 「うん! だって、ママが楽しそうだもん」

 私は、その言葉を聞いて少し考えた。

 確かに、私は変わったのかもしれない。

 前は、毎日が戦いだった。
 仕事に追われ、結菜のことをちゃんと見てあげられなくて、焦って、落ち込んで……。

 でも、今の私は違う。

 「ママね、最近気づいたんだ。この世界って、自分がどんなふうに見るかで変わるんだなって」

 「どういうこと?」

 「うーん、例えばね……」

 私は少し考えてから、言葉を続けた。

 「前のママは、『仕事が大変』ってばかり思ってた。でも、仕事が大変なのは本当にそうだったけど、実は『大変なことばかりに目を向けてた』だけだったのかもしれないって思うんだ」

 「ふーん?」

 「例えば、朝の電車の中で『今日も疲れるなぁ』って思ってると、本当に疲れる一日になる。でも、『今日はどんな楽しいことがあるかな?』って思うと、なんとなく良いことが起きるような気がするの」

 「それ、魔法?」

 結菜がワクワクした顔で聞いてくる。

 「魔法じゃないよ。でも、ちょっと魔法みたいだよね」

 私は、卵をフライパンに流し込みながら笑った。

 「この世界はね、スクリーンみたいなものなんだって」

 「スクリーン?」

 「そう。映画のスクリーンみたいに、自分がどんな映像を映すかで、見える世界が変わるんだよ」

 結菜は、スクランブルエッグを作る手を止めて、じっと私の顔を見た。

 「じゃあ、ママが楽しいって思ってるから、今のママは楽しい世界にいるってこと?」

 「そうそう! すごいね、結菜」

 「へへっ」

 結菜は嬉しそうに笑った。

 ***

 朝食を食べたあと、私はリビングのソファに座りながら、ぼんやりと窓の外を見ていた。

 「この世界は私のスクリーン……」

 私は、タフティメソッドを知るまでは、そんなこと考えたこともなかった。

 でも、今ならわかる。

 私は、ずっと「大変な世界」を映し続けていた。
 「大変な世界にいる母親」という役を演じていた。

 でも、それをやめることにした。

 私は、もっと明るい映像を映す。
 「楽しそうなママ」「結菜と笑っているママ」「幸せな私」

 そう決めたら、なんだか世界が本当に変わって見えた。

 「ママ?」

 結菜が、ソファにちょこんと座った。

 「どうしたの?」

 「ママが楽しいって思ってると、結菜も楽しい」

 私は、その言葉に驚いた。

 「本当?」

 「うん。だからね、ママがずっと楽しいって思ってくれたら、結菜もずっと楽しいよ」

 私は、その言葉をじっくりと噛みしめた。

 そうか。

 私は、自分が変わることで、結菜の世界まで変えることができるんだ。

 「そっか、じゃあ、ママはもっと楽しくしなきゃね」

 「うん!」

 結菜は元気よくうなずいた。

 ***

 その日、私は改めて心に決めた。

 この世界は、私のスクリーン。
 私は、自分の好きな映像を映していい。

 だから、これからはもっと楽しく、もっと幸せなスクリーンを作っていこう。

 結菜と一緒に。

 私は、そっと結菜の手を握った。

 「ねえ、これからも一緒に楽しいスクリーンを作ろうね」

 「うん!」

 結菜は、大きくうなずいた。

 スクリーンの向こうには、まだ見ぬ素晴らしい未来が広がっている。

 私は、その未来へと向かって歩き出した。