27. 過去を癒し、未来を創る【理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~】

理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~

第6章:新しい現実へ

27. 過去を癒し、未来を創る

 朝、目が覚めたとき、私は一瞬、夢を見ているのかと思った。

 隣の部屋から、小さな物音が聞こえてくる。

 「……あ」

 私は、ようやく思い出した。
 結菜が帰ってきたんだ。

 昨日のことが夢じゃなくて、本当に現実だったんだ。

 私は布団からそっと起き上がり、キッチンへ向かった。
 すると、テーブルの上に牛乳と食パンが置かれていた。

 「結菜?」

 リビングの隅で、結菜がこっそりと私を見ていた。

 「ママ、朝ごはん作ろうと思ったけど……パンしかなかった」

 私は、その言葉を聞いて思わず笑ってしまった。

 「ありがとう。でも、それだけで十分だよ」

 私は結菜の頭をそっと撫でた。
 結菜が、こんなふうに私のために何かしてくれる日が来るなんて。

 「じゃあ、一緒に何か作ろうか?」

 「うん!」

 私は、冷蔵庫を開けて、卵を取り出した。

 「よし、昨日のオムライスの残りの卵があるから、スクランブルエッグにしよう」

 「卵を混ぜるの、私がやる!」

 結菜が嬉しそうにボウルを手に取る。

 その姿を見て、私は心の中で小さくつぶやいた。

 「よかった、本当によかった……」

 ***

 朝食を食べ終わると、結菜は部屋の片隅に置かれていた古いアルバムを見つけた。

 「ママ、これ……」

 結菜が指さしたのは、私がずっと大切にしまっていたアルバムだった。
 そこには、結菜が赤ちゃんの頃からの写真がたくさん貼られている。

 結菜は、そっとページをめくった。

 「うわ、これ、私?」

 「そう。生まれたばかりの結菜」

 写真の中の結菜は、まだ小さくて、毛布に包まれて眠っていた。
 私はその写真を見つめながら、あの頃のことを思い出した。

 「結菜が生まれたとき、私は何があってもこの子を守ろうって思ったんだよ」

 「……そっか」

 結菜は、静かにページをめくっていく。

 「これは?」

 次のページには、幼稚園の頃の結菜が、私の手をぎゅっと握っている写真があった。

 「ああ、それはね……」

 私は、ふとその日のことを思い出した。

 ***

 その日、私は仕事が忙しくて、結菜を迎えに行くのが少し遅れてしまった。

 結菜は、園の門の前で、小さな手をぎゅっと握りしめながら待っていた。

 「ごめんね、遅くなって」

 そう言うと、結菜は何も言わずに私の手をぎゅっと握りしめた。

 「結菜?」

 「ママが来てくれてよかった」

 結菜のその言葉に、私は涙が出そうになった。

 「大丈夫、ママはいつも結菜のそばにいるから」

 あのとき、私はそう言ったのに……。

 それからしばらくして、私は仕事が忙しくなり、結菜のそばにいる時間が減ってしまった。

 「……結菜、ごめんね」

 私はアルバムを見ながら、思わずそうつぶやいた。

 結菜は、私の顔をじっと見つめた。

 「ママ?」

 私は、結菜の手をそっと握った。

 「ママね、結菜と離れて暮らしてた間、すごく後悔してたの。結菜のこと、もっと大切にしなきゃいけなかったって……」

 結菜は、少しだけ考え込むようにしてから、静かに口を開いた。

 「でも、今は一緒にいるよね」

 「うん……」

 「じゃあ、それでいいんじゃない?」

 私は、その言葉に驚いた。

 結菜は、もう過去のことを責めたりしない。
 今、この瞬間を大切にしようとしている。

 「ママ、もう泣かないで」

 結菜は、小さな手で私の頬をそっと撫でた。

 私は、ふっと笑った。

 「ありがとう、結菜」

 ***

 その日の午後、私は結菜と一緒に家の掃除をした。

 「ここ、ちょっとホコリある!」

 「おっ、さすが。じゃあ、結菜は雑巾がけ担当ね」

 「あ、掃除機もやりたい!」

 「欲張りだなぁ」

 そんなやり取りをしながら、私たちは家の中を整えていった。

 片付けが終わると、結菜がぽつりと言った。

 「なんか、気持ちいいね」

 「そうだね」

 「私たち、新しい家族になったみたい」

 私はその言葉を聞いて、じんわりと胸が熱くなった。

 「そうだね、これからはまた一緒に暮らしていくんだもんね」

 「うん!」

 結菜は、満足そうにうなずいた。

 過去の後悔はもう、手放していいんだ。
 私たちは今、新しい未来を創っている。

 私は、結菜の手をぎゅっと握りしめた。

 「これからも、よろしくね」

 「うん!」

 結菜の笑顔が、眩しく見えた。

 こうして、私たちは本当の意味で「新しい現実」へと踏み出したのだった。