26. 娘との再会【理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~】

理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~

第6章:新しい現実へ

26. 娘との再会

 私は、ドキドキしていた。

 結菜との再会の日。

 これまで何度も面会はしてきたけれど、今日は違う。
 今日は、結菜が本当に「家に帰る」日だ。

 児童相談所へ向かう道中、私は緊張でいっぱいだった。
 電車の窓に映る自分の顔を見て、「落ち着いて」と心の中で言い聞かせる。

 でも、落ち着くなんて無理だった。

 「結菜は、どんな顔をしてるかな」
 「久しぶりの家に、ちゃんと馴染んでくれるかな」

 心の中で、そんな不安がぐるぐると渦を巻いていた。

 児童相談所に着くと、待合室には柔らかな日差しが差し込んでいた。
 職員さんが「少しお待ちください」と言ったきり、時計の針が進むのが遅く感じる。

 ふと、初めてここに来た日のことを思い出した。
 あのときは、不安と絶望しかなかった。
 「どうしてこんなことになったんだろう」と、そればかり考えていた。

 でも今は違う。

 今日は、もう悲しみの場ではない。
 これは、私たちが「新しい未来」を始めるための日なのだ。

 ***

 「お母さん、準備ができましたよ」

 職員さんがそう言って、私に声をかけた。

 私は大きく息を吸って、ドアの前に立つ。

 そして、ゆっくりと扉を開けた。

 そこには、結菜がいた。

 結菜は、少し緊張した顔で立っていた。
 でも、私と目が合うと、ほんの少しだけ、口元がほころんだ。

 「……ママ」

 「結菜」

 私は、自然と歩み寄り、そっと結菜の手を握った。

 「あったかい」

 その瞬間、いろんな思いがこみ上げてきた。

 会えなかった日々のこと。
 寂しい思いをさせたこと。
 結菜も、私も、たくさん涙を流したこと。

 それでも、こうしてまた手をつなぐことができた。

 「結菜、おかえり」

 私は、ぎゅっと結菜の手を握った。

 結菜は、ほんの少しだけ驚いたような顔をしたあと、ゆっくりとうなずいた。

 「……うん、ただいま」

 その言葉を聞いた瞬間、私は涙がこぼれそうになった。

 でも、今日は泣かない。

 これは「悲しい涙」じゃなくて、「嬉しい涙」だから。

 ***

 帰り道、私たちは並んで歩いた。

 「久しぶりに一緒に歩くね」

 そう言うと、結菜は照れくさそうにうなずいた。

 「なんか、変な感じ」

 「うん、私も」

 道端には春の花が咲いていた。
 どこかで鳥のさえずりが聞こえる。

 少しだけ足取りが軽くなったような気がした。

 途中、スーパーに寄ることにした。

 「何か食べたいものある?」

 「……ママのご飯、食べたい」

 その言葉を聞いて、私は嬉しくてたまらなくなった。

 「じゃあ、今日は何作ろうか?」

 「うーん……オムライス?」

 「いいね!じゃあ、卵とケチャップたっぷりのやつ作ろう」

 結菜は、少しだけ笑った。

 レジに並ぶ結菜の横顔を見ながら、私は胸がいっぱいになった。
 この時間が、ずっとずっと欲しかったんだ。

 ***

 家に着くと、玄関のドアを開ける前に結菜が言った。

 「ママ」

 「ん?」

 「ただいま」

 私は、思わず笑ってしまった。

 「おかえり」

 玄関を開けると、結菜は部屋の中をゆっくりと見渡した。

 「……なんか、変わってないね」

 「うん。結菜が帰ってくるのを待ってたから」

 結菜は、自分の部屋へ向かい、ベッドの上に置いてあったぬいぐるみを手に取った。

 「これ、まだあるんだ」

 「捨てられるわけないでしょ」

 私は笑いながら、キッチンへ向かった。

 「さて、オムライス作るよ!」

 「手伝う!」

 私は、結菜と並んでキッチンに立つ。

 「じゃあ、卵を割るのお願いね」

 「え、失敗したらどうしよう」

 「大丈夫、多少殻が入っても食べられるよ」

 結菜は、クスクスと笑いながら卵を割った。

 私はその姿を見ながら思った。

 「大丈夫。これからは、ちゃんと一緒にいられる」

 私たちは、新しい未来へと向かって歩き出したのだ。