第5章:奇跡が始まる
24. 会えない日々の意味
結菜が戻ってくる日が決まった。
児童相談所での面談の帰り道、私は何度もその事実を噛みしめながら歩いていた。
あんなに遠く感じていた未来が、もうすぐ目の前まで来ている。
「結菜と一緒に暮らせるんだ……」
それは、ずっと願っていたことだった。
でも、いざ現実になりかけると、なんだか胸がぎゅっと締めつけられるような気持ちになった。
私は本当に、ちゃんと結菜を迎えられるんだろうか?
また前と同じように、忙しさにかまけて、結菜を寂しくさせてしまうんじゃないか?
「……いや、大丈夫」
私は自分に言い聞かせた。
今の私は、前とは違う。
タフティメソッドを知り、自分の意識が現実を作ることを学んだ。
何より、この数カ月の間に、私はたくさんのことを考えた。
そして気づいた。
「会えない日々には、意味があったんだ」
***
結菜と離れて暮らすようになったとき、私は絶望していた。
「どうしてこんなことになったんだろう」
「私がもっとちゃんとしていれば、こんなことにはならなかったのに」
毎日のように自分を責めた。
児童相談所に相談しても、「結菜さんの気持ちを優先しましょう」と言われるだけで、すぐに戻ってくるわけではなかった。
それがどれほど苦しかったか。
結菜と一緒に過ごしていた日常が、どれほどかけがえのないものだったかを痛感する日々だった。
でも、今ならわかる。
あの時間があったからこそ、私は変わることができた。
結菜を失いかけたからこそ、私は本気で「母親としての自分」と向き合うことができた。
もしも、何も変わらずに日々を過ごしていたら?
私は、仕事に追われて、結菜の寂しさに気づかないままだったかもしれない。
結菜が私のもとを離れたことは、最悪の出来事だった。
でも、それが私を変える最高のきっかけになった。
「会えない日々には、意味があったんだ」
私は、そのことを心の底から確信した。
***
家に帰ると、私は結菜の部屋を開けた。
ベッドには、結菜が置いていったぬいぐるみが、そのままの形で残っていた。
棚には、結菜が読んでいた本や、お気に入りの文房具が並んでいる。
「ずっと待ってたよね」
私は、ぬいぐるみをそっと抱きしめた。
結菜が戻ってきたら、この部屋でまた一緒に過ごせる。
前よりも、もっとたくさん話して、もっと笑い合える時間を作ろう。
私は、ぬいぐるみをそっと元の場所に戻した。
「準備しなきゃね」
私は、結菜を迎えるための準備を始めることにした。
***
次の日、私は久しぶりに雑貨屋に足を運んだ。
結菜が好きそうなクッションや、小さな観葉植物を買う。
前の私は、「そんなもの必要ない」と思っていたかもしれない。
でも、今はわかる。
「家の空間を整えることも、エネルギーの流れを良くすることにつながるんだ」
店を出て、帰り道のカフェでコーヒーを飲みながら、ふとスマホを見た。
画面には「11:11」の数字が並んでいた。
私は思わず微笑んだ。
「やっぱり、これでいいんだ」
会えない日々は、ただの試練ではなかった。
私たち親子にとって、必要な時間だったんだ。
すべての出来事には意味がある。
私は、そのことを噛みしめながら、コーヒーを一口飲んだ。