第5章:奇跡が始まる
23. 最悪の状況が最高のチャンスに変わる
「えっ……どういうことですか?」
私はスマホを手にしたまま、思わず声を出してしまった。
さっき児童相談所から届いたメッセージには、こう書かれていた。
「次回の面会について、お母さんにご相談があります。結菜さんの状況が少し変わりました。」
状況が変わった?
それって、良い話?それとも悪い話?
私は急に不安になった。
最近、物事が良い方向に動き出していたのに、ここにきて「状況が変わった」と言われると、何か悪いことが起きたのではないかと思ってしまう。
「いや、大丈夫。私はもう、被害者じゃないんだから」
私は深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。
***
次の日、私は児童相談所へ向かっていた。
電車の窓から流れる景色を見ながら、私は何度も自分に言い聞かせた。
「私は、この状況をどう受け止めるかを選べる」
「最悪の状況が、最高のチャンスに変わることだってある」
だって、今までの人生だってそうだった。
結菜が児童相談所に引き取られたときは、まさに「最悪の状況」だったけれど、その出来事をきっかけに私は変わった。
タフティメソッドを知り、「スクリーンの意識」を持つことを学び、現実を選ぶ力を手に入れた。
もしあのまま、何も考えずに日々を過ごしていたら、私はきっと今も被害者意識の中で生きていたと思う。
最悪の状況が、私を変える最高のチャンスになった。
だから、今回もきっと大丈夫。
私は、心の中でそう呟きながら、児童相談所のドアを開けた。
***
担当者は、落ち着いた表情で私を迎えてくれた。
「お母さん、お待ちしておりました」
私は少し緊張しながら椅子に座った。
「結菜さんの状況ですが、実は、本人の希望で少し前倒しでお母さんとの同居を進めることができるかもしれません」
私は、一瞬、自分の耳を疑った。
「えっ……?」
「もちろん、正式な手続きや準備が必要ですが、結菜さん自身が『もうママと一緒に暮らしたい』とはっきり言ってくれました」
私は、思わず胸が熱くなった。
「結菜が……?」
「はい。最近はとても落ち着いていて、スタッフにも『ママのところに帰りたい』とよく話しています」
まさか、こんなに早く話が進むなんて。
私は、驚きと喜びが入り混じったまま、じっと担当者の言葉を聞いていた。
「ただ……」
私は、少しだけ身構えた。
「ただ、これからの環境について、しっかりと考えていただく必要があります」
私はうなずいた。
「もちろんです」
「結菜さんも、長い間お母さんと離れていたことで、多少の不安もあると思います。
ですから、今後の生活の中で、どういうふうに親子の時間を作っていくか、一緒に考えていきたいと思っています」
私は、静かに息を吐いた。
「はい、私も結菜と一緒に暮らせるなら、全力で環境を整えます」
担当者は微笑みながらうなずいた。
「ありがとうございます。では、具体的なスケジュールを考えていきましょう」
***
児童相談所を出た瞬間、私は思わず大きく息を吸い込んだ。
「……やっぱり、最悪の状況って、最高のチャンスなんだな」
だって、少し前までは「結菜と暮らせるのはまだまだ先の話」だと思っていたのに、今はもう、その未来が目前に迫っている。
もしあのとき、私はただ「どうしてこんなことになったの?」と悲しみに浸っていたら、この現実は訪れなかったかもしれない。
私は、自分の意識を変えた。
だから、現実も変わった。
「……ありがとう、結菜」
私は心の中で結菜に語りかけた。
結菜は、ちゃんと自分の気持ちを伝えてくれた。
私が変わったように、結菜も成長している。
「よし、準備しなきゃ」
私は、結菜が戻ってきたときのことを考えながら、ワクワクした気持ちで帰り道を歩いた。
空は、どこまでも広がっていた。
これはもう、「最悪の状況」なんかじゃない。
最高の未来が、すぐそこまで来ている。