第5章:奇跡が始まる
22. 運命が動き始めるサイン
最近、なんだか不思議なことが多い。
結菜の声を聞いた翌日、児童相談所から「面会の回数を増やす方向で考えている」と連絡がきた。
今までは、「しばらく様子を見ましょう」と慎重だったのに、急に話が前に進み始めた。
そして、その夜。
私はまた、結菜の夢を見た。
夢の中で、結菜は笑っていた。
青空の下、白いワンピースを着て、私のほうを向いてニコッと笑う。
「ママ、大丈夫だよ」
結菜がそう言った瞬間、私はハッと目を覚ました。
「……これは、何かのサイン?」
最近、こんなふうに「ただの偶然とは思えない出来事」が続いている。
私は、シンクロニシティ(意味のある偶然)が起こるときは、運命が大きく動き出す前兆だと聞いたことがある。
「もしかして、これは結菜が戻ってくる準備が整い始めたサインなのかもしれない」
そう思ったら、なんだかワクワクしてきた。
***
その日、私は気分転換にカフェへ行くことにした。
お気に入りの席に座り、いつものようにカフェラテを注文する。
店内には心地よい音楽が流れ、コーヒーの香りがふんわりと漂っている。
私はぼんやりとスマホを眺めながら、最近の出来事を振り返った。
「運命が動き始めるサインって、どんなときに現れるんだろう?」
そう思って検索してみると、こんな言葉が目に入った。
「シンクロニシティが頻繁に起こるときは、人生の転機が訪れている証拠」
私は、コーヒーを飲みながら考えた。
最近の私は、ゾロ目の数字を頻繁に目にするようになったし、
結菜の声が聞こえた翌日に面会の話が進み、
夢の中で結菜が「大丈夫だよ」と言っていた。
これは、やっぱりただの偶然じゃない。
「やっぱり、私の運命は変わり始めているんだ」
私は、ゆっくりとカフェラテを口に運んだ。
***
店を出て歩いていると、突然、目の前を一匹の黒猫が横切った。
「……おお?」
黒猫というと、なんとなく「不吉なサイン」のイメージがあるけれど、実は逆だ。
ヨーロッパでは「幸運を運ぶ存在」とされているらしい。
「これは、いいサインかもしれないな」
そんなことを考えながら歩いていると、今度は向かいの店のショーウィンドウに飾られたポスターに目が留まった。
「新しい未来へ、一歩踏み出そう!」
それは、ただの自己啓発セミナーの広告だった。
でも、その言葉が、まるで私に向けて言われているような気がした。
「そうだよね、もう迷う時期は終わったんだ」
私は、ポスターを眺めながら、改めて思った。
今の私は、もう「結菜に会えるかな?」と不安に思う必要はない。
「結菜は戻ってくる」と、もう決まっている。
私は、その未来に向かって進めばいいだけなのだ。
***
家に帰ると、玄関に置いてあった観葉植物の葉が新しく伸びているのに気づいた。
「えっ、こんなに成長してた?」
今まで気づかなかったけれど、よく見ると新芽が出ている。
この植物は、私が結菜と暮らしていたころからずっと育てているものだ。
「なんか、私みたいだな……」
今までじっと耐えていたけれど、気づいたら新しい葉を伸ばしていた。
「成長してるんだな、私も」
私はそっと葉に触れながら、微笑んだ。
***
スマホを見ると、児童相談所からメッセージが届いていた。
「次回の面会について、お母さんにご相談があります」
私は、メッセージをじっと見つめた。
「……これ、絶対いい話だ」
私はもう、何も疑わなかった。
運命が動き始めている。
それは、こんな小さなサインからもわかるのだ。
私は深呼吸をして、ゆっくりと返信を打った。
「ありがとうございます。いつでもお話を伺います」
送信ボタンを押した瞬間、ふわっと心が軽くなった。
窓の外では、夕焼けが空をオレンジ色に染めていた。
すべてが、いい方向へ進んでいる。
私はそのことを、心の底から実感していた。