20. 新しいラインへ飛ぶ【理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~】

理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~

第4章:意識のシフト

20. 新しいラインへ飛ぶ

 児童相談所での面談を終えて外に出ると、風が心地よかった。肌に触れる風は、まるで「お疲れさま」とでも言ってくれているようだった。

 空を見上げると、雲ひとつない青空が広がっていた。こんなに晴れていたんだ。面談の間、少しも気づかなかった。気持ちが落ち着いている証拠かもしれない。

 「新しいラインへ飛ぶ」――最近、この言葉が頭の中をよぎることが多くなった。

 タフティメソッドを知ってから、「現実は選べるもの」という考え方が少しずつ馴染んできた。  今までの私は、ただ目の前の出来事に流され、選択の余地がないと思い込んでいた。  でも、本当は違う。

 私は、どの現実を生きるかを選べる。  今いる「ライン」から、違う「ライン」に飛ぶことができる。

 そう思ったら、これまでの悩みが小さなものに感じるようになった。

 「よし、新しいラインへ行こう」

 私は、深く息を吸い込みながら、そう決めた。

 ***

 帰り道、商店街を歩いていると、小さな花屋が目に入った。

 普段なら素通りしてしまうような店だったけど、今日はなぜか立ち止まった。  「部屋に花を飾ったら、もっとエネルギーが変わるかもしれない」  そんな気がしたのだ。

 店内に入ると、ふわっと優しい花の香りが広がった。  白や黄色のバラ、鮮やかなチューリップ、紫のラベンダー……色とりどりの花が並び、どれも美しく輝いているように見えた。

 その中で、ふと目に留まったのが、ピンク色のガーベラだった。

 「これだ」

 なぜか直感でそう思った。

 店員さんが微笑みながら言った。

 「ガーベラの花言葉、ご存じですか?」

 「いえ……なんですか?」

 「希望と前進、ですよ」

 私は、思わず息をのんだ。

 今の私に、ぴったりの言葉じゃないか。

 私は迷わず、そのガーベラを買うことにした。

 「いい選択ですね」

 店員さんがそう言って、優しく包んでくれた。

 私は花を抱えながら、心の中で確信した。

 「新しいラインに飛ぶって、こういうことなんだ」

 ***

 家に帰ると、すぐに花瓶に水を入れて、ガーベラを飾った。

 部屋に花があるだけで、空気が変わった気がする。  窓から差し込む光に照らされて、ピンク色の花びらが優しく揺れていた。

 私はソファに座り、しばらくその花を眺めていた。

 「昔の私だったら、花なんて飾らなかったな……」

 そんなことを思った。

 以前の私は、毎日が慌ただしくて、「花を飾る余裕なんてない」と思っていた。  でも、それは「余裕がない」のではなく、「自分で余裕を作ることを諦めていた」だけだったのかもしれない。

 私はスマホを手に取り、カレンダーを開いた。

 次の面会の日程が決まった。  そして、その先には「結菜が戻ってくる日」も、きっともうすぐそこにある。

 今までは、「どうなるんだろう?」と不安に思っていた。  でも、今の私は違う。

 「結菜が戻ってくる未来は、もう決まっている」

 私はそれを、すでに選んでいる。

 私は、もう「理不尽な世界にいる母親」ではない。  私は、「希望と前進の未来を生きる母親」になった。

 スクリーンの向こうには、私と結菜が笑顔で暮らしている未来が映っている。  そして、私はそこへ飛ぶと決めた。

 「新しいラインへ、行こう」

 私は、花瓶のガーベラを見つめながら、静かにそうつぶやいた。

 そのとき、ふとスマホが光った。

 「次回の面会について調整の連絡をしたいのですが……」

 児童相談所からのメッセージだった。

 私は驚くこともなく、むしろ「やっぱり」と思った。

 すべては決まっている。私が選んだから、こうなっているのだ。

 エネルギーが整えば、現実は変わる。

 私はスマホを握りしめ、返事を打った。

 「ありがとうございます。日程の調整をお願いいたします」

 送信ボタンを押すと、胸の奥がじんわりと温かくなった。

 「このまま進めばいい」

 私はもう、迷わない。