第3話『謎の老婦人~タフティメソッドとの出会い~』
休日、私はタロットカード占い師として活動していた。
平日は会社員として働き、休日になると地元の小さなイベントやカフェの片隅で静かにカードを広げて占いをしている。
カードを通して人々の悩みに寄り添い、アドバイスをする時間だけが、自分らしくいられる唯一の瞬間だった。
以前参加したイベントで、隣のブースに不思議な老婦人がいた。
独特の穏やかさを漂わせ、彼女の前に座った人たちは皆、何か心に深く響くような表情をして帰っていった。
その時の彼女の深い瞳が、私の心に強く刻まれていた。
そして今日、まったく予期しない場所で再びその老婦人と出会った。
疲れ果て、寂しさに押しつぶされそうになりながら立ち寄ったコンビニで、ふと目を上げると彼女が穏やかな笑顔を浮かべていた。
「あら、あなた、お久しぶりね」
彼女の微笑みがなぜか、私の中で張りつめていた糸を静かにほどいていくようだった。
「お久しぶりです。まさかこんなところでお会いするとは…」
彼女はゆっくり頷いて言った。
「偶然なんてものはないのよ。私たちが再び出会ったのには、必ず理由があるの」
私は驚いて彼女を見つめ返した。その言葉には不思議な響きがあった。
「あなた、とても辛そうね。時間があるならお話しましょう」
誘われるまま近くの落ち着いた喫茶店に入った。
私はカフェラテを、彼女はミルクティーを注文した。
店内は心地よいジャズが流れ、コーヒーの香りが漂っていた。
外は冷たい風が吹いていたが、店の中は温かく、まるで別世界のように感じられた。
私は溜め込んできた苦しさを吐き出すように、娘が児童相談所に引き取られてしまったこと、職場でのつらい出来事、周囲の冷たい視線について話した。
言葉を紡ぐたびに胸が締めつけられ、いつしか涙が頬を伝っていた。
老婦人は静かに話を聞き終えると、穏やかな口調で言った。
「あなたは今、自分が世界の犠牲者になっていると思っている。でも、本当はそうじゃないの。あなた自身に、自分の人生を変える力があるのよ」
私は戸惑いながら彼女を見つめた。
「でも…私にはもう何もできる気がしないんです…」
彼女はバッグから『タフティ・ザ・プリーステス』という一冊の本を取り出し、私に手渡した。
「これはあなたにあげるわ。この本はね、自分の望む現実を映画のように自由に選ぶための方法が書かれているの。自分自身を主人公として、望む未来を描くのよ」
表紙をなぞると、金色の文字が浮かび上がるように見えた。
その本には何か特別な力があるように思えた。
「本当に…こんなことで現実が変わるんですか?」
老婦人は優しく微笑みながら言った。
「意識が変われば、必ず現実も変わるわ。あなたならきっとできる。まずは本を読んでみて」
彼女の言葉には不思議な説得力があった。
私は心の中で、何かがゆっくりと動き始めるのを感じた。
喫茶店を出たとき、私は久しぶりに明るい気持ちになっていた。
胸に抱いた「タフティ・ザ・プリーステス」の本に、未来を託すような気持ちで家に向かった。
帰宅すると、私はソファに腰を下ろし、そっと本を開いた。
そこには、まるで私に語りかけるような言葉が綴られていた。
「あなたは、あなたが選んだ現実の中にいる。あなたはどの物語を生きるのかを選べるのよ」
その日を境に、私の人生はゆっくりと新しい方向へと動き出したのだった。