17. こうなると決めれば、そうなる【理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~】

理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~

第4章:意識のシフト

17. こうなると決めれば、そうなる

 「こうなると決めれば、そうなる」

 最近、私はこの言葉を何度も繰り返している。

 タフティメソッドを知ってから、「スクリーンの意識」を持つことを意識するようになった。
 今までは、ただ目の前の出来事に反応して、流されるばかりだった。
 でも、もし「私はこうなる」と決めたら、本当にそうなるのだとしたら?

 「私の人生は私が創っている」

 そう思ったら、不安が少しずつ消えていった。

 ***

 その日、私は児童相談所へ向かっていた。

 いよいよ、結菜との面会の日だ。
 久しぶりに娘の顔を見ることができる。

 電車に揺られながら、私は目を閉じた。

 「私は、結菜と笑顔で再会する」
 「私は、結菜を安心させる」
 「私は、これから結菜と楽しく暮らす」

 そう決める。
 そして、それがすでに決まっている未来だと思う。

 今までは、「どうなるんだろう?」と不安に思っていた。
 でも、不安に思うということは、「悪い未来が起こるかもしれない」と決めているのと同じだ。

 なら、私は良い未来を決める。

 「こうなると決めれば、そうなる」

 そう信じることにした。

 ***

 児童相談所に着くと、担当の職員さんが迎えてくれた。

 「お母さん、お待たせしました。結菜さん、今お部屋にいますよ」

 私は深呼吸をして、ゆっくりとうなずいた。

 ドアを開けると、そこに結菜がいた。

 小さな会議室のような部屋の真ん中に、結菜はぽつんと座っていた。
 学校の制服姿のまま、両手を膝の上に揃えて座っていた。

 私と目が合った瞬間、結菜は一瞬、驚いたような表情をした。
 それから、少しぎこちなくまばたきをして、目をそらした。

 私は一歩、部屋の中に入った。

 「結菜、久しぶり」

 結菜は、返事をするまでに数秒かかった。

 「……うん」

 その声は小さかったけれど、ちゃんと届いた。

 私はもう一歩近づいて、そっと椅子を引いた。

 「元気だった?」

 「……普通」

 「そう」

 私はゆっくりと座り、結菜の顔をじっと見た。

 少しやせた気がする。
 髪はきれいにまとめられているけど、どこか元気がないようにも見えた。
 でも、それでも、こうしてここに座っているだけで十分だった。

 しばらく沈黙が続いた。

 私は「何を話そう?」と頭の中で考えながら、ふと結菜の手元に目をやった。

 結菜の指先が、ほんの少し震えているのがわかった。

 「……結菜」

 私は、おそるおそる言葉を続けた。

 「寂しかった?」

 結菜は、その言葉に少し肩をすくめた。

 そして、小さく、ほんとうに小さく頷いた。

 「うん」

 私は、その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がキュッと締めつけられた。

 結菜はずっと、私が迎えに来るのを待っていたんだ。
 私が「大丈夫、すぐ戻れるよ」と言ったのを信じて。

 「ごめんね」

 私は、自然とそう言っていた。

 「寂しい思いさせちゃったね」

 結菜は、その言葉には答えなかった。

 でも、さっきまでずっと伏せていた目を、ようやく私に向けた。

 「……ママ、変わったね」

 「え?」

 「なんか……前より、明るい」

 私は、一瞬、何のことかわからなかった。

 でも、そう言われて、ふと思い出した。

 今の私は、「私は被害者じゃない」と決めた。
 そして、「これからは母としてだけじゃなく、一人の女性としても生きる」と決めた。

 そうやって、自分を取り戻していくうちに、きっと私の雰囲気も変わったんだ。

 「そっか……」

 私は微笑んだ。

 「ママ、少しだけ、自分のこと大事にすることにしたの」

 結菜は、少し考えるようにして、うなずいた。

 「それ、いいと思う」

 それは、私にとって何よりも嬉しい言葉だった。

 ***

 結菜との面会は、思ったより短く感じた。

 もっとたくさん話したかったし、もっと一緒にいたかった。
 でも、今日はここまで。

 私は、結菜の前に立って言った。

 「またすぐ会えるからね」

 「うん」

 「絶対迎えに行くから」

 結菜は、ほんの少しだけ、口角を上げた。

 「……うん」

 私は、その表情をしっかりと目に焼き付けた。

 こうなると決めたから、私は絶対に結菜を迎えに行く。
 これはもう決まった未来だ。

 私は、結菜の小さな微笑みを胸に刻みながら、ゆっくりと部屋を後にした。