16. 私は被害者ではない【理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~】

理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~

第4章:意識のシフト

16. 私は被害者ではない

 私はずっと「理不尽な世界の被害者」だと思っていた。

 シングルマザーとして仕事と子育てに追われ、結菜が児童相談所に連れて行かれ、世間からは「母親失格」のレッテルを貼られた。
 何をやってもうまくいかない。
 私は頑張っているのに、どうしてこんな目に遭わなきゃいけないの?

 そんなふうに思っていた。

 でも――最近、少し考え方が変わってきた。

 それは、タフティメソッドを知ってから。
 「スクリーンの意識」を持つようになってから。

 私が選んでいたのは、「理不尽な世界の被害者としてのスクリーン」だったのかもしれない。

 ***

 そんなことを考えながら、私は商店街を歩いていた。

 久しぶりに少しおしゃれをして、気持ちを切り替えようと思ったのだ。
 いつもはTシャツとジーンズだけど、今日はワンピースを着て、少しだけメイクもした。

 すると、不思議なことに、いつもと見える世界が違った。

 道ゆく人たちが、なんとなく優しく見える。
 通りすがりの人が「こんにちは」と挨拶をしてくれる。
 カフェに入ると、店員さんがにっこり笑って対応してくれる。

 「……え?」

 こんなこと、前はなかった気がする。

 私はふと思った。

 「もしかして、私の意識が変わったから、世界が変わったのか?」

 それまでの私は、常に「理不尽な世界の中で苦しむ母親」という目で世界を見ていた。
 だから、そういう現実ばかりが目に入っていたのかもしれない。

 でも、「私は被害者ではない」と決めた瞬間、違う世界が見え始めたのかも?

 私は、ゆっくりとコーヒーを飲みながら、考えた。

 「私の人生は、私が創っている」

 「だったら、もっと自由に創っていいんじゃない?」

 今までの私は、「どうして私はこんなに大変なんだろう」とばかり考えていた。
 でも、今の私は、「私はどうやってこの人生を楽しもう?」と考えられるようになっている。

 カフェの窓から商店街を眺める。
 焼きたてのパンの香りが漂い、八百屋の前では年配の女性が野菜を品定めしている。
 子どもたちの笑い声が響き、道端で話し込むおばあさんたちの姿が目に入る。

 「こんな世界だったんだ……」

 いつも慌ただしく通り過ぎていたこの街が、今日はまるで別の場所のように感じる。

 私はふと、過去の自分を思い出した。
 仕事に追われ、いつも時間に追い立てられていた頃。
 結菜の話をゆっくり聞く余裕もなく、「あとでね」と流してしまったこともあった。

 今ならわかる。
 あの頃の私は、目の前の現実に支配されていた。
 でも、今は違う。

 ***

 帰り道、私は夕暮れの空を見上げた。

 オレンジ色に染まる空。
 雲がゆっくりと流れていく。

 私は、今までずっと「頑張らなきゃ」と思っていた。
 でも、本当は、そんなに頑張らなくてもよかったのかもしれない。

 空の色は、少しずつ紫へと変わっていく。
 まるで私の心が、新しい段階へ移り変わっていくようだった。

 「私は、もう被害者ではない」

 私は、自分の人生を創る側なのだから。

 そう思うと、なんだか心がスッと軽くなった。

 ふと、スマホを取り出し、結菜との写真を見た。
 笑顔でピースをしている結菜。

 「次に会うときは、私もこの笑顔でいよう」

 私は、今日もまた、新しいスクリーンを選んだのだ。

 そのとき、風がふわっと吹いた。
 頬を撫でる柔らかな風。まるで「よくやったね」と言われているような気がした。

 空を見上げると、飛行機雲がすっと伸びていた。
 新しい未来へと続く道のように見えた。

 私は、それを眺めながら、小さく微笑んだ。