第4章:意識のシフト
16. 私は被害者ではない
私はずっと「理不尽な世界の被害者」だと思っていた。
シングルマザーとして仕事と子育てに追われ、結菜が児童相談所に連れて行かれ、世間からは「母親失格」のレッテルを貼られた。
何をやってもうまくいかない。
私は頑張っているのに、どうしてこんな目に遭わなきゃいけないの?
そんなふうに思っていた。
でも――最近、少し考え方が変わってきた。
それは、タフティメソッドを知ってから。
「スクリーンの意識」を持つようになってから。
私が選んでいたのは、「理不尽な世界の被害者としてのスクリーン」だったのかもしれない。
***
そんなことを考えながら、私は商店街を歩いていた。
久しぶりに少しおしゃれをして、気持ちを切り替えようと思ったのだ。
いつもはTシャツとジーンズだけど、今日はワンピースを着て、少しだけメイクもした。
すると、不思議なことに、いつもと見える世界が違った。
道ゆく人たちが、なんとなく優しく見える。
通りすがりの人が「こんにちは」と挨拶をしてくれる。
カフェに入ると、店員さんがにっこり笑って対応してくれる。
「……え?」
こんなこと、前はなかった気がする。
私はふと思った。
「もしかして、私の意識が変わったから、世界が変わったのか?」
それまでの私は、常に「理不尽な世界の中で苦しむ母親」という目で世界を見ていた。
だから、そういう現実ばかりが目に入っていたのかもしれない。
でも、「私は被害者ではない」と決めた瞬間、違う世界が見え始めたのかも?
私は、ゆっくりとコーヒーを飲みながら、考えた。
「私の人生は、私が創っている」
「だったら、もっと自由に創っていいんじゃない?」
今までの私は、「どうして私はこんなに大変なんだろう」とばかり考えていた。
でも、今の私は、「私はどうやってこの人生を楽しもう?」と考えられるようになっている。
カフェの窓から商店街を眺める。
焼きたてのパンの香りが漂い、八百屋の前では年配の女性が野菜を品定めしている。
子どもたちの笑い声が響き、道端で話し込むおばあさんたちの姿が目に入る。
「こんな世界だったんだ……」
いつも慌ただしく通り過ぎていたこの街が、今日はまるで別の場所のように感じる。
私はふと、過去の自分を思い出した。
仕事に追われ、いつも時間に追い立てられていた頃。
結菜の話をゆっくり聞く余裕もなく、「あとでね」と流してしまったこともあった。
今ならわかる。
あの頃の私は、目の前の現実に支配されていた。
でも、今は違う。
***
帰り道、私は夕暮れの空を見上げた。
オレンジ色に染まる空。
雲がゆっくりと流れていく。
私は、今までずっと「頑張らなきゃ」と思っていた。
でも、本当は、そんなに頑張らなくてもよかったのかもしれない。
空の色は、少しずつ紫へと変わっていく。
まるで私の心が、新しい段階へ移り変わっていくようだった。
「私は、もう被害者ではない」
私は、自分の人生を創る側なのだから。
そう思うと、なんだか心がスッと軽くなった。
ふと、スマホを取り出し、結菜との写真を見た。
笑顔でピースをしている結菜。
「次に会うときは、私もこの笑顔でいよう」
私は、今日もまた、新しいスクリーンを選んだのだ。
そのとき、風がふわっと吹いた。
頬を撫でる柔らかな風。まるで「よくやったね」と言われているような気がした。
空を見上げると、飛行機雲がすっと伸びていた。
新しい未来へと続く道のように見えた。
私は、それを眺めながら、小さく微笑んだ。