15. 母として、女として【理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~】

理不尽な世界の攻略法 ~51歳シングルマザーの覚醒ストーリー~

第3章:シンクロニシティの波

15. 母として、女として

 最近の私は、少しだけ「自分のこと」を考えるようになった。

 結菜が児童相談所に行ってからというもの、私はずっと「母親として」どうあるべきかを考え続けてきた。
 結菜に寂しい思いをさせたこと、私の働き方や生活環境のこと、児童相談所とのやりとり……。
 毎日が「母親としての私」のことで埋め尽くされていた。

 でも、ふと気づいたのだ。

 「私は、母親である前に、ひとりの女なんじゃないか?」

 そんなことを考えたのは、本当に久しぶりだった。

 ***

 その日、私はいつものカフェにいた。

 コーヒーを飲みながら、スマホを眺めていたら、画面の端にふと「おすすめ記事」というのが出てきた。
 そこに書かれていたタイトルが目に飛び込んできた。

 「母である前に、あなたはひとりの女性です」

 私は、思わず指を止めた。

 「……まさに今の私のことじゃん」

 そう思って、記事を開いた。

 そこには、こんなことが書かれていた。

 「子どもを大切にすることは素晴らしいことです。でも、あなたが自分の人生をおろそかにしていたら、子どもも同じように『自分の人生より他人を優先する』ことを学んでしまうかもしれません」

 私はギクッとした。

 私はずっと、「母としてちゃんとしなきゃ」と思っていた。
 でも、そればかりに気を取られて、自分自身のことなんて後回しにしていた。

 おしゃれも、恋愛も、自分の夢も――全部「母親だから」と言い訳をつけて、封印していたのかもしれない。

 私は、スマホを置いて、窓の外を眺めた。

 私は今、何がしたいんだろう?

 ***

 そういえば、最近まったく気にしていなかったけれど、私は恋愛を最後にしたのはいつだっけ?

 元夫と別れてからは、仕事と子育てに追われて、そんなこと考える余裕もなかった。
 「私は母だから」とか、「もういい年だし」とか、いろんな理由をつけて、そういう話題は遠ざけていた。

 でも、最近の私は「スクリーンの意識」を持つようになった。

 それなら、「私は母でありながら、女性としても充実している」という未来のスクリーンを選ぶこともできるんじゃないか?

 私は、ふと思い立って、美容室の予約を入れた。

 ***

 翌日、美容室に行くと、美容師さんが「ずいぶん久しぶりですね」と笑った。

 「ええ、最近ずっとバタバタしていて……」

 「そうですよね。でも、たまには自分を大事にしないと」

 私は鏡越しに自分の顔を見つめた。

 「確かに、ちょっと疲れてるな……」

 美容師さんが、手際よく髪を整えていく。
 カットされる髪を見ながら、私は思った。

 「私は、もっと自由でいいんじゃないか?」

 母であることと、女であることは、両立できないわけじゃない。
 ただ、私が「どちらかしか選べない」と思い込んでいただけなのかもしれない。

 ***

 美容室の帰り道、私はふと鏡を見た。

 少しだけ軽くなった髪。
 久しぶりに整えられた眉。
 ちょっとだけ、心がウキウキしている自分がいる。

 私は、母としての私も、女性としての私も、大切にしたい。
 そのどちらかだけを選ばなくてもいい。

 結菜に会ったら、「私はこんなふうに変わったよ」と話せるようになりたい。
 そして、結菜にも「自分の人生を大切にすること」を伝えられる母になりたい。

 「これからは、もっと自由に生きよう」

 私はそう決めて、足を軽くして歩き出した。