第1章:理不尽な世界に囚われて
1. 通報 〜娘を奪われた日〜
私の娘、結菜(ゆいな)がいなくなった。
「家出?」と聞かれたら、「いや、そうじゃなくて」と答えるしかない。
「誘拐?」と言われても、「いや、それもちょっと違う」となる。
結菜は、国に連れて行かれたのだ。
ある日のこと、仕事を終えてクタクタになりながら帰宅すると、郵便受けに見慣れない封筒が入っていた。開けてみると、そこにはこう書かれていた。
「お子さんを一時保護しました」
私は目をパチパチさせた。
「お子さん」って、うちの?
「一時保護」って、つまりどういうこと?
とりあえずスマホを取り出し、封筒に書かれた番号に電話をかける。
数回のコールのあと、落ち着いた声の女性が出た。
「はい、○○児童相談所です」
「あの、すみません、今日届いた通知についてなんですけど」
「あ、お母さんですね。結菜さんの件ですね」
結菜の名前を普通に出されると、なんだか余計に不思議な感じがした。
「えっと、これってどういうことなんでしょう?」
「あのですね、近隣の方から、お子さんが長時間ひとりで過ごしているという通報がありまして」
「はあ……」
「お子さんの安全を考え、一時的に保護させていただきました」
この時点で、私は頭がフリーズしていた。
娘がひとりでいることが、どうしてこんな大ごとになるのか。
「え、でも、結菜はもう中学一年生ですよ? 学校にもちゃんと通ってるし、ご飯だって用意してますし」
「はい、ですが長時間ひとりでいる状態が続いているとのことで……」
私は思わずため息をついた。
確かに仕事が忙しく、平日は結菜とゆっくり話す時間が少なかった。でも、放置していたわけじゃない。
「でも、これってそんなに急に決まることなんですか?」
「お子さんの安全を第一に考えていますので」
そう言われると、もう何も言えない。
でも、結菜はどうしてるんだろう? 急に知らない場所に連れて行かれて、不安じゃないだろうか。
「結菜に会えますか?」
「それについては、今後の話し合いの中で決めていきます」
話し合い? 何を話し合うんだ?
「お母さん、明日こちらにお越しいただけますか?」
「はい……」
電話を切ったあと、私はしばらく呆然としていた。
家の中はシーンとしている。いつもなら、結菜がYouTubeを見ながら笑っているはずなのに。
結菜は、どんな気持ちで今いるのだろう。
何も悪いことをしていないのに、突然連れて行かれて、知らない人に囲まれて……。
私はソファに座り込み、天井を見上げた。
どうして、こうなったのか。
いや、それよりも、どうしたら結菜を取り戻せるのか。
こうして、私の「理不尽な世界との戦い」が始まった。