プロローグ
私の人生は、なかなかのものである。
気がつけば五十一歳、離婚歴二回、そしてシングルマザー。
こう聞くと、まあまあ波乱万丈っぽいけど、私としては「まあこんなもんかな」と思っている。
人生にはいろいろなことがあるし、人それぞれいろんな形があるのだ。
だけど、そんな私に「これはちょっとやりすぎじゃない?」と思わせる出来事が起こった。
ある日突然、娘の結菜(ゆいな)が児童相談所に連れていかれたのだ。
何を言っているのかわからない? 私もそうだった。
その日、仕事を終えて家に帰ると、郵便受けに見慣れない封筒が入っていた。
なんだろうと思って開けると、それは児童相談所からの通知だった。
「お子さんを一時保護しました」
……ん? え、うちの子? うちの結菜?
いやいや、ちょっと待って。
とりあえず書かれていた番号に電話をかけてみた。
「はい、〇〇児童相談所です」
あまりにも普通のトーンで出られてしまい、私は一瞬、他の用事で電話をかけたのかと勘違いしそうになった。
「あの、通知が届いたんですけど、うちの子、保護されたって……」
「はい、結菜さんですね。お母さん、最近お仕事が忙しいようで、お子さんが長時間一人になっているとの通報がありまして」
「えっ」
「それで、子どもの安全を考慮し、一時的にお預かりすることになりました」
いやいや、待って。私は娘を放置していたわけじゃない。
毎日、仕事が終わったらすぐに帰ってたし、ちゃんとご飯も用意してたし、結菜はもう中学一年生だ。学校だってちゃんと通ってる。なにより、娘は「大丈夫」って言ってたのに……。
「え、でも、これってそんな簡単に決まるんですか?」
「はい、子どもの安全が最優先なので」
「でも、結菜は何か困ってるって言ってました?」
「お母さん、詳しいことは後日お話ししましょう。とりあえず、明日相談所までお越しください」
……いや、詳しいことが今すぐ知りたいんだけど。
私はスマホを握りしめたまま、しばらくその場で固まっていた。
娘がいない家は、いつもより広く感じた。
いや、広いというより、がらんとしている。
気がつくと、目の奥が熱くなっていた。
どうしてこうなったのか。
私はそんなに悪い母親だったのか。
答えのない疑問を抱えたまま、私はその夜、なかなか眠ることができなかった。
だけど、これはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
この後、私は次々と不思議な出来事に巻き込まれていくことになる。
奇妙なメッセージ、偶然の一致、そして、「現実は思ったよりも柔軟に変えられる」という話。
この理不尽な世界を攻略するための方法が、すぐそこまで来ていた。